トモニテ
子どもを抱き上げる父親

小児科医・高橋孝雄先生が伝える「最高の子育て」①

小児科医として、また父親として多くの子どもと向き合う高橋孝雄先生。悩みの尽きない子育てにおいて「子どもの力を信じる」ことの大切さを考え続けてきました。著書『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』から、すべてのママ・パパに伝えたい子育て論をご紹介します。
小児科医として、また父親として多くの子どもと向き合う高橋孝雄先生。悩みの尽きない子育てにおいて「子どもの力を信じる」ことの大切さを考え続けてきました。著書『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』から、すべてのママ・パパに伝えたい子育て論をご紹介します。

「トンビがタカを産む」は遺伝的にはありえません。

海辺を歩いていると空を大きく旋回しながらえさを探しているトンビに出逢います。ピーヒロロロといななく鳴き声はそれだけでのどかな情景です。いっぽうのタカはくちばしや眼光も鋭く、鳥類のなかでも強くてしなやか。獲物を捉えたら離さない獰猛さがあります。トンビとタカは同じタカ科ですが、まったく別の鳥です。

それがなぜ、「トンビがタカを産む」ということわざになったのでしょう。

生まれた子どもが両親とはかけ離れた才能を持っていたり、優秀だったりすると、世間の人々は訳知り顔で「ああ、トンビがタカを産んだ」とつぶやくのです。負け惜しみなのか、「逆立ちしたってかなわない」とカブトを脱いだのか。

いずれにしても、「トンビがタカを産む」ことはありません。

いやいや、ちょっと待ってください。両親ともに学業成績がふるわなかったのに、子どもの成績は学年1位。トップクラスの大学に現役合格している例だって、ありますよね。これは立派な「トンビがタカ」に見えるかもしれません。あるいは両親にまったく音楽の素養がなく、英才教育を受けたわけでもないのに、音楽家として成功している人もいるでしょう。これも「トンビがタカ」じゃないのか。実は違うのです。

まずは勉強が得意じゃなかった両親からトップランクの大学に現役合格する子どもがなぜ生まれるのか、という謎から。そのご両親は、家庭の事情や時代状況などで、勉強する習慣がなかっただけかもしれないし、勉強のやり方がわからなかっただけかもしれません。よき指導者に出逢って学習環境が整っていれば、相応の学力をつけていたかもしれない。その可能性は否定できないはずです。

つまり、おとうさん、おかあさんも実はトンビではなくタカだったというふうに考えられるのです。音楽家のご家族もしかり。おとうさん、おかあさんも、何かのきっかけで音楽に親しむ機会があれば、子どもと同じように才能を開花させていた可能性が十分にあります。こちらも「トンビのようで実はタカ」。今からでも楽器を習いはじめたら、めきめきと上達するかもしれないし、歌ってみたら、実は素晴らしい歌唱力があるかもしれませんね。

突然変異という言葉を聞きます。突然変異があれば、トンビがタカを産むのでしょうか。これもあり得ませんね。ごく平凡な両親から超がつく優秀な子どもが生まれたとしても、それは、遺伝情報がもともと持っている正常な〝振れ幅〞に収まるていどのものなのです。遺伝子が決めたシナリオの〝余白〞のようなものですね。

その逆もあります。おとうさんもおかあさんも、それぞれの道で才能を発揮して、活躍しているとしましょう。ところがおふたりの子どもは、あまりぱっとしない。「なぜ、わたしたちの子どもが……」となげくことがあるかもしれません。それも、心配ないですね。親がタカならば、子どもだってタカ。タカはトンビを産みません。お子さんも自分の才能に気付いていない、生かしきれていない、才能を持てあましている、というだけなのかもしれません。

トンビはトンビの子を産み、タカはタカの子を生む。ツバメはツバメの子を産み、ヒバリはヒバリの子を産む。アンデルセン童話〝みにくいアヒルの子〞は実はアヒルの子ではなかった。ここで大事なことは、鳥の種類が違うだけでそこに優劣はない、ということです。教育の効果とは、親から受け継いだ遺伝子の特徴を上手に生かせるようにすることなのです。

写真提供:ゲッティイメージズ

※当ページクレジット情報のない写真該当

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