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産後の「肥立ち/ひだち」とは? 言葉の意味や気をつけること

【医師監修】産後の「肥立ち/ひだち」とは? 言葉の意味や気をつけること

ママの体は、妊娠期だけでなく産後にもさまざまな変化が起こります。
「産後の肥立ち/ひだち」とは、産後の体の状態を表すときに使われる言葉です。
この記事では、言葉の意味や産後に気をつけたい症状について解説します。
ママの体は、妊娠期だけでなく産後にもさまざまな変化が起こります。
「産後の肥立ち/ひだち」とは、産後の体の状態を表すときに使われる言葉です。
この記事では、言葉の意味や産後に気をつけたい症状について解説します。

産後の肥立ち(ひだち)とは?

産後の肥立ちの意味

「産後の肥立ち」とは、妊娠・分娩によって大きく変化した母体が、妊娠前の状態に戻っていくことを意味する言葉です。

なお、医学的には、分娩が終了してから妊娠前の状態に回復するまでの約6~8週間を「産褥期(さんじょくき)」といいます。

産後のママの体に起こる変化

子宮が少しずつ元に戻る(子宮復古)

大きくなった子宮が収縮して、妊娠前の大きさに少しずつ戻っていくことを「子宮復古(しきゅうふっこ)」といいます。

産後2~3日まではおなかに痛みを感じることがありますが、これは子宮復古を促すために子宮が収縮する痛みです。この痛みは「後陣痛(こうじんつう)」と呼ばれます。

特に授乳時にはオキシトシンというホルモンの分泌が増え、母乳の分泌をうながすとともに、後陣痛を促進させるため、強い痛みを感じる場合があります。

後陣痛を経て、子宮は産後6~8週間で元の大きさに戻ります。

子宮を含めた周囲の骨盤組織も徐々に戻るのですが、個人差も大きく、自然に戻る場合と、意識して積極的に緩みを戻さなければならない場合があります。

会陰切開や産道の傷は多くの場合、およそ2週間くらいで日常生活が可能になることが多いです。

悪露(おろ)

悪露とは、子宮が元に戻る過程で、子宮から排出される分泌物のことです。

産後3日頃までは血液成分が多く含まれているため赤色ですが、次第に褐色、淡黄色、白色と変化していき、6週間ほどで分泌は止まります。

母乳が出始める

初産婦(初めてお産をするママ)は産後2~3日頃、経産婦(過去にお産の経験があるママ)は産後1~2日頃から母乳の分泌が始まります。

この頃に分泌される母乳が、「初乳」と呼ばれるものです。

初乳は免疫物質を多く含んでおり、このような乳汁成分の状態はおよそ2〜3週間にわたり続いて、次第に通常の母乳成分へ移行していきます。

初乳の期間は母乳を赤ちゃんに飲ませることで、赤ちゃんはその後およそ半年ほどにわたり、お母さんからもらった免疫で自分を守ることができるのです。

母乳の分泌量は、赤ちゃんが乳首を吸う刺激によって増えていきます。

産後の肥立ちが悪いとは?

医学的な用語ではありませんが、「産後の肥立ちが悪い」とは、産後の体の回復が遅れていることや体調不良が続くことを表す言葉です。

産褥期のママの体には、以下のようなトラブルが生じる場合があります。

子宮の戻りが悪い(子宮復古不全)

産後の経過日数に対して、子宮復古の遅れが認められる状態を子宮復古不全(しきゅうふっこふぜん)といいます。

原因はさまざまですが、多くは胎盤などが子宮内に残されていることによるものです。

子宮復古不全では子宮収縮が十分に行われないため、産後1~2ヶ月経っても血液が混じった悪露が続きます。

子宮が下がった感じ、腟の入り口から何かが触れる(子宮下垂・子宮脱)

産後、子宮を支えている靭帯(じんたい)や筋肉の集まりである骨盤底筋が傷ついたり緩んだりして子宮が腟を通じて体の外に出てきてしまうことをいいます(骨盤底の緩み)。

医師や助産師に診てもらい、便秘や立位の多い生活習慣を改善し、骨盤底筋を引き締める体操などをする必要があります。

発熱(産褥熱)

産後、高熱が出る場合は産褥(さんじょく)熱と呼ばれます。

分娩後数日~およそ一か月までに38℃以上の発熱が2日以上続く場合をいいます。

発熱以外にみられる症状は、下腹部痛や悪臭を伴う悪露などです。

乳腺炎

乳腺炎は、細菌感染や母乳が乳腺内に溜まることで起こる炎症です。

乳腺炎が起こると乳房の痛みや腫れ、赤くなる、熱をもつなどの症状がみられます。細菌に感染すると、わきのリンパ節の腫れや38.5℃以上の発熱が生じる場合があります。

高血圧

赤ちゃんとの生活が始まるとゆっくり休める時間が取りづらく、血圧が上がりやすくなります。妊娠中から血圧が高かったママはより注意が必要です。

心の変化

産後は、精神的に不安定になりがちです。産後3~10日に発症する軽い抑うつ状態を「マタニティーブルーズやマタニティブルー」といいます。マタニティーブルーズは生理的なものであり、2週間ほどで消失する場合がほとんどです。

ただし、症状が長引く場合には「産後うつ」の可能性があり、治療が必要です。

帝王切開後の産後の肥立ちに違いはあるの?

帝王切開となる理由はさまざまです。

逆子などの適応で予定帝王切開である場合と比べて、経腟分娩中に何らかの理由(分娩が長引いて生まれない、胎児の心音が下がったなど)で緊急帝王切開になった場合のほうが、ママの負担感は強いでしょう。帝王切開のときの状況によります。

経腟分娩でも、お産が長くかかったり、難産であったりする場合には、回復により時間を要することがあるため、一概には言えません。

帝王切開は手術のため経腟分娩とは違った点があります。

股ではなくおなかに傷ができる、術後の食事や尿管留置や抜去などです。しかし現在は術後鎮痛も工夫されており、早期離床がすすめられているため、1〜2日くらいで母乳や赤ちゃんのお世話については経腟分娩のママと同じように進めることができます。

帝王切開に限らず産後は頑張りすぎないことです。

すべてを行おうとせず、十分に休みながら赤ちゃんのお世話をするようにしましょう。

帝王切開後は血管内に血液の塊ができやすい(静脈血栓塞栓症)

「静脈血栓塞栓症」とは、血管内に血液の塊(血栓)ができ、血液の流れを止めてしまう病気です。

血栓が静脈の壁からはがれ、肺の動脈に詰まってしまうと呼吸困難や失神などの症状を引き起こし、命に関わる場合があります。

妊娠・産褥期には、妊娠前より血栓ができやすい状態になります。特に産後は分娩方法にかかわらず、非妊娠女性の6倍のリスクがあるといわれます。低用量ピルを服用している人のリスクをはるかに上回るのです。

安静臥床(ベッドに寝た状態)期間があるとリスクが増すことが、帝王切開のあとの早期離床が勧められる理由です。遠慮せず医療スタッフに、サポートしてもらいましょう。

産後のこんな症状に注意!

産後に以下のような症状や、気になる症状がある場合は、早めに医師の診察を受けましょう。

・血液が混じった悪露が1~2ヶ月続く

・悪露から悪臭がする

・腰痛、腹痛

・発熱、頭痛、めまい、浮腫(むくみ)

・帝王切開や会陰切開(えいんせっかい)の縫合部がひどく痛む、改善傾向がない

・乳房の痛み、赤み

・尿が近く、排尿時に痛みがある

・激しい息切れ・不眠、不安、食欲不振が続く 

・ものごとが楽しめない、やる気がでない、無力感、自暴自棄になる

産後の症状については、こちらの記事も参考にしてみてください。

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産後の肥立ちを良くするために

産後の肥立ちを良くするためには、産褥期をどのように過ごすかが重要です。

できる限りママの気持ちや体に負担がかからないようにしましょう。

赤ちゃんのお世話以外はできる限り休息

産後はママ自身の体調を整えることが大切です。赤ちゃんのお世話をする以外はできる限り休息を取り、身の周りのことは、パパや家族などにまかせましょう。

自分の状態をまわりの人にわかってもらえるようなコミュニケーションを上手に取れるとよいですね。

外出は産後1ヶ月を目安に

産後の健診でママと赤ちゃんの経過が順調な場合、外出は産後1ヶ月頃を目安に始めるとよいでしょう。まずは無理をせず、近場からがいいですね。

運動や性生活は医師の許可を

産後の運動や性生活は医師の許可を得てから開始しましょう。運動は、簡単な体操から始め、少しずつ体を慣らしていきましょう。

性生活については、次の妊娠まで期間を空けたい場合、1ヶ月健診の時に医師に相談しましょう。「産後生理(月経)がないから妊娠はしない」という思い込みは思わぬ妊娠を招くことになりかねません。

避妊を目的とした低用量ピルは授乳中は服用できません。産後6週間して子宮復古が順調で、悪露が無ければ子宮内に避妊具を入れることはできます。

出産後の妊娠については以下の記事も参考にしてください。

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利用できるサービスは活用する

産後は周りの人に協力してもらうことも大切です。サポートを頼める人が近くにいない場合は、産前産後サポートサービスや配食サービスなどを利用してみるのもよいでしょう。

それぞれの自治体により違いがありますが、産後のサポートについて相談できる窓口もあります。

_______

産後のママの体はゆっくり回復します。

産後の肥立ちには個人差もあります。できるだけ無理をしないよう、少しずつ赤ちゃんとの生活に慣れていきましょう。

参考:

・医療情報科学研究所(編)『病気が見えるvol.10 産科 第4版』(メディックメディア 2018年)

・厚生労働省研究班(東京大学医学部藤井斑)監修「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ 」(2021年4月20日閲覧)

・国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 妊娠と高血圧 (2021年4月20日閲覧)

・Heit JA,Kobbervig CE,James AH, et Al.:Trends in the incidence of venous thromboembolism during pregnancy or postpartum:a 30-year population-based study. Ann Intern Med 2005:143:697-706

写真提供:ゲッティイメージズ

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