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【医師監修】妊婦健診の甲状腺検査でひっかかると異常?出産への影響は?

【医師監修】妊婦健診の甲状腺検査でひっかかると異常?出産への影響は?

妊婦健診の際、人によっては甲状腺の検査を受け、数値の異常を指摘されるなど、検査にひっかかることがあります。甲状腺疾患は妊娠や赤ちゃんに影響することもあります。この記事では、甲状腺検査や疾患がどのようなものか、妊娠・胎児への影響について解説します。
妊婦健診の際、人によっては甲状腺の検査を受け、数値の異常を指摘されるなど、検査にひっかかることがあります。甲状腺疾患は妊娠や赤ちゃんに影響することもあります。この記事では、甲状腺検査や疾患がどのようなものか、妊娠・胎児への影響について解説します。

甲状腺とは?

甲状腺とは、甲状腺ホルモンを分泌する働きを持つ器官です。のど仏の下あたりにあり、蝶のような形をしています。

甲状腺ホルモンは、主に下記のような身体機能・成長などに影響します。

  • 身体の新陳代謝を活発にする
  • 身体の成長や発達
  • 妊娠の成立や維持

甲状腺では甲状腺ホルモンの産生や分泌が行われますが、その調節を行うのは脳にある「下垂体(かすいたい)」です。

下垂体が、体内の甲状腺ホルモンの量をチェックし、からだの状態に合わせて甲状腺に指令を出して甲状腺ホルモンの量を調節します。

妊娠中は、甲状腺ホルモンの分泌に影響するホルモンが胎盤から多く出ますが、この下垂体の働きのおかげで、甲状腺ホルモンのバランスが保たれています。

そのため、妊娠中に血液検査で甲状腺の数値に異常がみられる場合は、脳もしくは甲状腺になんらかの原因があってバランスを崩してしまっていることが考えられます。

妊婦健診で甲状腺の検査は行うの?

妊婦健診では、超音波検査や血液検査など、いろいろな検査が行われます。甲状腺検査はなんのために行うのでしょうか?

妊婦健診についてはこちら#妊婦健診 の記事も参考にしてください。

甲状腺の検査は必ず行うもの?

妊婦健診で甲状腺の検査を行うかは、自治体や病院によって違います。

一般的には、ママに甲状腺の異常を疑う症状や既往歴がある場合に行われることが多いですが、希望をすれば、検査を行なっている病院や、専門外来などで受けることも可能です。

甲状腺の検査を受けられるかどうかは、かかりつけの産婦人科に確認してみましょう。

なぜ甲状腺の検査は必要?

妊娠中に甲状腺の検査をする必要性があるのはなぜでしょうか?

甲状腺の機能に異常があると、ママや赤ちゃんに下記のような影響があります。

■甲状腺機能が通常より活発な場合

  • 妊娠高血圧症候群や常位胎盤早期剝離のリスクが高くなる
  • 胎児の心機能異常や新生児の甲状腺機能の異常が起きる可能性がある
  • 胎児の体重が基準より低い(胎児発育不全)ことがある
  • 流産・早産・死産のおそれがある

■甲状腺機能が低下している場合

  • 妊娠高血圧症候群のリスクがある
  • 胎児の体重が基準より低い(胎児発育不全)ことがある
  • 流産のおそれがある

※検査にひっかかったからといって、これらの影響が必ず起こるわけではありません。検査結果や必要な治療などは、医師に確認しましょう。

甲状腺の検査にひっかかるのはどんなとき?

甲状腺の検査では、甲状腺ホルモンや甲状腺の分泌に関わるホルモン(TSH)、甲状腺を攻撃する自己抗体(自分の細胞や組織を敵とみなして攻撃するタンパク質)が血液中にどれだけあるかをチェックします。

もし甲状腺の病気がある場合、これらの数値が正常値から外れた結果となります。

しかし、妊娠中の場合は甲状腺の病気がなくても、異常値を示す場合があることを知っておきましょう。

妊娠初期には、胎盤からhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンが多く分泌されます。hCGは、妊娠の維持に欠かせないホルモンで、基本的に妊娠中にしか分泌されません。

hCGは、甲状腺の分泌に関わるホルモンと似た作用を持つため、妊娠初期に甲状腺機能が活発になることがあります。

そのため、妊娠初期に甲状腺の検査にひっかかることがあります。この場合は医師の判断で治療の必要性や方針などを決めます。

甲状腺の異常と赤ちゃん・出産への影響は?

甲状腺の異常には、主に甲状腺機能が活発な状態(甲状腺機能亢進症)と、甲状腺機能が低下した状態(甲状腺機能低下症)の2種類があります。

■甲状腺機能亢進症

妊娠時に甲状腺機能亢進症をあわせもっている頻度は0.2~0.3%といわれています。甲状腺機能亢進症の代表的な病気が「バセドウ病」ですが、妊娠初期に一時的に甲状腺機能が活発化する場合もあります。

引用:メディックメディア、「病気がみえる vol.10  産科」、甲状腺機能亢進症(p193)

■甲状腺機能低下症

妊娠時に甲状腺機能低下症をあわせもっている頻度は0.11~0.16%といわれています。甲状腺機能低下症の約半数が「橋本病(はしもとびょう)」という自己免疫疾患です。橋本病以外のケースでは、甲状腺の手術後やアイソトープ治療(放射線を放出するカプセルを内服する治療法)後などに、甲状腺機能が低下することがあります。

引用:メディックメディア、「病気がみえる vol.10  産科」、甲状腺機能低下症(p192)

どちらも女性に多く、妊娠・出産を経験する年代に起こりやすい病気です。知らない間に発病しているという場合もあります。

赤ちゃんや妊娠への影響が出る可能性があるため、甲状腺疾患の診断を受けている場合には必ず産婦人科医に伝えましょう。

もし妊娠してから甲状腺の異常が見つかっても、赤ちゃんやママに必ず影響が及ぶとは限りません。検査結果に異常がある場合は医師の判断を仰ぎましょう。

甲状腺疾患の治療について

甲状腺の病気は、妊娠高血圧症候群や胎児の発育の遅れ、流産など、胎児やママの健康や命に関わることがあります。

そのため、甲状腺疾患と診断された場合は、医師の診断に従い、治療や通院が必要です。

■治療薬について

甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症では、治療に使われる薬が異なります。

【甲状腺機能亢進症の場合】

甲状腺機能亢進症の治療薬の中には、胎児の成長や発達に影響を及ぼすものがあるため、妊娠週数や甲状腺の状態を考慮して、治療薬が選択されます。

【甲状腺機能低下症の場合】

甲状腺機能低下症の治療では、流産率や早産率の低下につながるため、早期から甲状腺ホルモン剤でホルモンを補充する治療が選択されます。

どちらの場合も、甲状腺の働きが正常に近づけることを治療の目的としているため、妊娠中から産後にかけて定期的な検査と、治療薬の種類や量の調整が必要になります。

■治療はせずに経過観察のみの場合も

状態によっては、検査のみで治療はせずに様子をみることもありますので、受診頻度や治療方針はかかりつけの医師に確認しましょう。

甲状腺機能亢進症も甲状腺機能低下症も、現在の医療では完治することは難しいため、より正常に近い「寛解」を目指して治療が行われます。

甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症で、代表的な病気について詳しく見てみましょう。

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)

妊婦健診で甲状腺ホルモンの数値が高いことがわかった場合、バセドウ病が疑われます。

バセドウ病は甲状腺機能亢進症のひとつで、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。20~30代の女性に多いのが特徴です。

甲状腺ホルモンは、新陳代謝を活発にする働きを持つため、バセドウ病になると常に運動しているような状態になります。

下記のような症状がバセドウ病の主な特徴とされています。

  • 脈拍数の増加
  • 体重減少
  • 手指のふるえ
  • 発汗の増加
  • 息切れ
  • 疲れやすい
  • 情緒不安定、落ち着かない
  • 眼球突出(目が飛び出したようになる)

橋本病(甲状腺機能低下症)

妊婦健診で甲状腺ホルモンの数値が低いことがわかった場合、橋本病が疑われます。

橋本病は甲状腺機能低下症のひとつで、主に甲状腺に慢性的な炎症がおきる病気です。

30~40代の女性に多いのが特徴です。

バセドウ病とは逆に、全身の代謝が低下するため、下記のような症状が見られるといわれています。

  • 無気力
  • 疲れやすさ
  • むくみ
  • 寒がり
  • 体重増加
  • 便秘
  • 記憶力低下
  • かすれ声

出産後も注意が必要

バセドウ病の場合、妊娠後期に軽快し、産後に悪化することもあります。

また、橋本病の場合、妊娠中に橋本病になった人の約半数以上の人が産後に無痛性甲状腺炎や甲状腺機能低下症を合併することがわかっています。

どちらも産後の体調不良の原因となり、日常生活や育児に影響が出る場合も。

そのため、産後も定期的に病院を受診し、甲状腺機能のチェックを受けることが望ましいです。そして、処方された薬はきちんと内服するようにしましょう。

授乳にも差しさわりのない薬とその量であることがほとんどですので、服薬を中止する必要はありません。

甲状腺疾患は子どもに影響する?

ママ自身が甲状腺の病気である場合、子どもに遺伝しないか心配になる方も多いでしょう。甲状腺の病気の遺伝の可能性について見てみましょう。

体質は遺伝するが必ず発病するわけではない

バセドウ病や橋本病になりやすい体質は遺伝するといわれていますが、必ず発病するものではないようです。

下記のような環境など複数の要因が加わることで、発病するのではないかと考えられています。

  • ウイルス感染
  • ヨードのとりすぎ(海藻類や薬剤、造影剤など)
  • 花粉症などのアレルギー
  • 喫煙
  • 強いストレス
  • 妊娠、出産 など

対処として何かできることは?

甲状腺の病気がある場合、ママや胎児への影響を最小限にするにはどうすればよいでしょうか?治療を継続的に受けることはもちろんですが、下記のような日常生活の注意点を知って実践しましょう。

■処方された薬は医師の指示に従い用法用量を守って飲むようにする

甲状腺の病気は、妊娠中から産後にかけて状態が大きく変化するといわれています。

治療薬によっては胎児に影響を及ぼす可能性もあるため、ママの状態や胎児の成長段階に合わせた治療薬が処方されます。

そのため、妊娠中は治療薬の種類や量の調整が必要になり、処方される薬が変わることもあります。処方薬は以前処方されたものではなく、都度新しく処方された薬を、用法用量を守って正しく服用することが大切です。

■ストレスを溜めないようにする

ストレスは病気の悪化や再発の要因となるため、ストレスの少ない生活を心がけましょう。規則正しい生活を送り、趣味や自分のための時間を作り、ストレスを溜めないことが大切です。

■禁煙する(バセドウ病の場合)

タバコを吸うことで、薬の効きが悪くなったり、体へのストレスの原因になったりすることも。また、バセドウ病の場合、喫煙によって目の症状が悪化する可能性があるともいわれています。

妊娠中は喫煙による胎児への影響も心配されますので、禁煙するようにしましょう。

■ヨードを含む食品を控えるようにする(橋本病の場合)

ヨードは海藻類に多く含まれるミネラルです。摂りすぎによって甲状腺ホルモンが低下するといわれているため、橋本病の方は下記の食品を控えるようにしましょう。

  • 昆布(とろろ昆布も含む)
  • 昆布だし汁
  • ひじき
  • わかめ など

また、ヨウ素系うがい薬の使用も避けるとよいとされています。

甲状腺疾患について知っておこう

甲状腺の病気は、妊娠中のママや赤ちゃんに影響を及ぼす可能性があるため、適切な治療を受けることが大切です。治療によって、甲状腺の機能が正常な状態に近づけることができます。

適切に治療をすることで、赤ちゃんもママも健康な状態のときと変わらず妊娠・出産ができるようになり、日常生活に制限なく過ごすことができるようになります。

甲状腺疾患について正しい知識を持ち、早期発見・早期治療を心がけるようにしましょう。

  • 甲状腺の病気は、妊娠・出産を経験する年代の女性に多い
  • 妊婦健診で甲状腺の検査を受けられるかは、自治体や病院によって異なる
  • 甲状腺の病気は、胎児や母体に影響を及ぼすことがある
  • 適切な治療によって寛解を目指し、影響を最小限に抑えることが重要

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写真提供:ゲッティイメージズ

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